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ぬるま湯雑記帳

巻之拾壱

女子寮騒動顛末 をんなのそのさわぎのあれこれ  
ふくすけ 巻之拾壱 穴可笑御奈良都 あなをかしおならのみやこ おにゅう

筆者注:読者の皆様、今回は(毎回かもしれない)野良犬にでもかまれたと思ってあきらめて下さい。こんなんだから嫁の貰い手がないんだ。

 突然であるが、私は「おなら」というコトバが嫌いである。何故といわれてもさっぱり分からない。「奈良」はすんなりと受け入れられる響きなのに、「お」が一つついただけで前者はどうもいけない。私は「へ」を好む。一字で全てをあらわす奥ゆかしさ。この空気の抜け具合がなんともよろしい。だからなんなんだ。

 寮は全てにおいて不便であったが、最も手を焼いたのが屁(この漢字も可笑しい)の始末であった。気心の知れた友達の前でピッと出た場合には「あら、出ちゃったわ」で笑ってカタがつく。ところが「ピッ」が「ブワッ」だったり、先輩後輩の前だったり、防毒マスクが必要な場合も想定されるわけで、そんな時ににっこり笑ってすます自信はない。ただ不思議なのは、屁の主な被害はにおいであるのに、音がしなければ気づかれないというか、気づいても「おや?」という疑問で各自がとどめておいてもらえるというのか(これは他人といるときに限る。親兄弟は容赦しない)「疑わしきは罰せず」というのか、早い話、音がしなければしらばっくれることができる。最大のテーマは音、これをどうするか。集団生活とはいらんことに気を使うことだと思う。

 そんな葛藤と前後して「みんなはどうしてる?」とアンケートを取ったことがある。一人が布団の中、残りの数名はトイレだった。布団の中は自家中毒を起こしそうだった。トイレといっても水を流しながら用を足す昨今、個室に入ったからといって心おきなく出来るものでもない。やっぱり音をどうにかしなくては。
 音は空気や物体が振動して起こるものだと、いつぞや習ったことを思い出した。しかるに音を止めるためには振動を止めればいい。ティンパニの音を小さくするには、皮を指で押さえていたっけなあと中学の部活まで記憶をさかのぼらせた。屁の場合、振動しているのは「出口」のところなので、そこの振動をとめりゃいいんだという結論に達し、理科の実験や部活動がこんなところで活かされるかと思うと、目頭が熱くなった。

 さて、「出口」の振動をとめるといってもそれこそティンパニじゃないんだから、直接、というわけにはいかず、トイレットペーパーを介することとなった。してみるとやっぱり場所はトイレである。皆様同じ方法をお使いであったのだろうか。難しかったのは「振動をとめる」イコール「ふさぐ」にしてしまうと全く意味をなさないということで、ガスは出しつつ振動はとめるという技は鍛錬を必要とし、ときには失敗もあった。
 それでも私の知識を総動員してあみだされた技は比較的重宝した。勿論、屁のたびにトイレに駆け込んでいたわけではない。闇から闇に葬り去られたもの、皆様の温かい心遣いによって無視されたものが大半である。そんな人生に涙がとまらない。

 のちに一人暮らしをすることになるのだが、技が不要になったときの喜びといったらなかった。
 幸せは、身近なところに転がっている。(続く)


1999年12月1日発行 佐々木ジャーナル第26号より(一部変更) 千曲川薫


当時から「嫁の貰い手」についての危惧があったのだなと、しみじみしてしまいましたよ。危惧は現実問題として、現在もまだ存在しております。また亂筆さんに教育的指導を受けそうですが、いや、切実な問題だったんだってばー。
コメントもしにくい話でしょうから、皆さん、スルーでいいですからねー。




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